つながる通信 02

市民風車は、多くの皆さんに支えられて回り始めます。
クリーンな電気は、人、街、モノ、コトをつなぐエネルギーも届けます。
ここでは、市民風車を介してつながったさまざまな皆さんをピックアップ。
一人ひとりの想いを紹介していきます。

連載 02

どこまで高精度に風が読めるか

陸野 秀明

風況解析

風力発電は、強い風が安定して吹く場所に風車を建てることが事業の根幹。そして、特定の場所について風の強さや方向などを調べるのが、風況調査である。そのデータの解析することで、事業の将来性が見えてくる。

陸野 秀明Hideaki Mutsuno

東京都出身。1996年から風力発電機メーカーで風況解析業務に従事した後、2004年、㈱北海道市民風力発電(当時)に入社。風況調査室室長として2005年2月に運転を開始した「かぜるちゃん」「かりんぷう」以降の全プロジェクトの調査を担当する。観測データやアメダスの気象データをもとに精緻な発生電力量を予測し、事業開発を支えている。気象予報士。

1年以上かけて候補地点の風況を読み解く

1年以上かけて候補地点の風況を読み解く

風力発電事業は、風の強さで得られる利益が決まる。
どれだけポテンシャルを持った場所なのかを知るため、
長期にわたって候補地点の風を観測し、
風車を建てた場合の発電量を予測すること。
それが、陸野が担当する風況調査業務の使命である。

日本各地では、どのような風の吹き方をしているのか。
その目安として使われているのが、
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が
公開している「局所風況マップ」や、
環境省が公開している「風況マップ」である。
ただ、そこに示されているデータは参考にはなるものの、
正確な風況や発電量の予測は難しい。

また、日本は季節によって風の吹き方が大きく変わるため、
最低でも1年以上観測する必要がある。
そのため、事前に多角的に事業性を検討し、
その結果、一定の目処が立つと、
陸野はいち早く準備して候補地点の風況調査を行う。

ジンポールの引き起こし作業
ジンポールの引き起こし作業

急な山道を歩いて観測タワーを設置

観測タワーの設置工事は現場まで道があればいいが、
全部が全部そうと限らない。
候補地点が山奥の場合、工事関係者はキャタピラ付きの運搬車に機材を載せ、
登山道のような険しい道を歩くことになる。
最終的には陸野も現場へ出かけ、工事の仕上がりを確認する。

観測機器を設置方法には2種類あって、
ひとつは2〜3mに分解されたメインポールとセンサーを地上で組み立て、
先端の滑車を用いてウインチで引き起こす「ジンポール式」。
この方法は施工期間が短くていいが、強度がないため作業性が悪く、
支線を張ってポールを支えるために広い用地が必要になる。
もうひとつが、1週間くらいかけて下から組み上げていく「ラティスタワー式」。
こちらは強度があるので人が登って作業でき、用地も小さくてすむ。
ただ、施工期間が長いぶんだけ費用が多くかかる。
まさに一長一短あり、どちらを選ぶかはケースバイケースだ。

『風況調査のやり方は、ずいぶん変わりましたよ。
昔は30mの高さで観測していましたが、
現在では50~60mの高さが主流です。
当時は羽根のハブの高さは40~60m程度でしたが、
最近は風車も大型化され、80~90mになっています。
そうした中で精度を確保するには、
なるべく風車と近い高さで観測する必要があるからです』

さまざまな計器をポールに取り付けるさまざまな計器をポールに取り付ける

  • 地上50mで組み立て作業する現場スタッフ
    地上50mで組み立て作業する現場スタッフ
  • 風に揺られれながらの作業は慣れていても難しい
    風に揺られれながらの作業は慣れていても難しい

観測タワーからは1日1回、パソコンにデータが送信されることになっているが、
落雷でデータが喪失することもある。不具合が起きた時、現場へ1人出かけて行き、
保守やデータ回収するのも風況調査担当の仕事だ。今年は、各地で春から熊が出没した
ニュースが相次いだ。たくさん人間がいれば出てくることもないだろうが、
人を恐れなくなった熊も増えたという話もあり、陸野には別次元の悩みが増えてしまった。

観測データから将来の発電量を予測

観測データから将来の発電量を予測

設置された観測機器は、平均風速、平均風向、
最大瞬間風速、風速の標準偏差を集めているが、
もちろん、これらは単なる数値の羅列に過ぎない。
ここからいかに正確に発電量を予測するかが、重要である。
また、必ずしも観測した場所に風車が建つとは限らない。
実際の風況はわずか500m離れただけで大きく異なることも多い。

もちろん複数の風車が建つ場合も、その場所すべてで風況観測はできない。
そんな時はコンピュータソフトウェアによる
シミュレーションによって、発電量を予測する必要も出てくる。
調査期間は最低1年以上実施するが、
最近は2年、3年にわたって観測するケースも。
観測が1年では、その年にたまたま風が強かったり、弱かったりすると
平均風速と大きく離れてしまうことがある。

長期間データが集めるほど誤差が縮まるので、
より高い精度を求めるなら、長期間観測するのに越したことがない。
一方、会社としてはなるべく開発のリードタイムを縮めたい。
それで、短期間のデータで長い期間を予測せざるを得ない場合は、
気象庁のアメダスなどの長期データと相関を取って予測し、発電量を計算している。
陸野の長年にわたるキャリアが、それを可能にしている。

短い観測で長い将来を予測する難しさ

2013年3月にナセルが落下する事故があった。
その日は設計基準内の風が吹いていたが、
地形が複雑で乱流が発生しやすかった。
因果関係は明確になってはいないが、それが続いたために
ボルトに金属疲労が起きたということも考えられる。
その件があってから風力発電機メーカーは以前にも増して
乱流や気流の傾きを重視するようになり、
高精度な風況調査データがないと設備を売らなくなった。
金融機関も融資案件の審査を厳格にし、
リスクを精査するようになっているという。
その意味で、風況調査は単に発生発電量の予測に不可欠なだけでなく、
より重要な役割を担うようになった。
陸野の責任と期待は、さらに大きくなっている。

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